インフルエンザ脳症


インフルエンザ脳症とはインフルエンザ感染を契機に起こった急性脳症のことです。インフルエンザ感染をきっかけとして、脳全体が腫れる(脳浮腫)ことにより意識障害、頭蓋内圧亢進症状、しばしばけいれんを伴う神経症状を示します。炎症を伴わないことから、脳炎とは区別されます。生命が危険になることもしばしばある、非常に重篤な疾患です。
日本では毎年、100〜500人がインフルエンザ脳症にかかっています。その大部分が1〜5歳の幼児です。インフルエンザではA香港型(H3N2)がもっとも起こしやすく、B型による脳症が重症化しやすいといわれています。死亡率は10%位といわれています。生存しても重篤な神経学的後遺症(知能障害、運動障害、てんかんなど)を残すことが少なくありません。
急性期の血液・脳脊髄液中の炎症性サイトカイン(TNF−α、IL−6)が異常高値を示し、このことからサイトカインストーム(サイトカインの嵐)を起こすといわれています。

症状
発熱、けいれん、意識障害が最も多い症状です。嘔吐、頭痛、その他の神経症状、行動の異常などが見られます。

診断
脳脊髄液の検査、CTスキャン、MRI、脳波などを検査し、診断します。
脳炎は脊髄液に炎症細胞が増え、脳症は脊髄液に炎症細胞は見られません。

治療
入院して、安静にし、輸液を行ない、脳内の圧力を下げる治療を行います。それ以外にウイルスに直接効果のある薬や脳の機能を良くするような薬を使用します。
さらに、炎症性サイトカインの産生抑制ないし除去を目的とし、サイトカインからの脳保護を目的とした特殊治療が行われるようになりました。

予後
ウイルスの種類や治療効果、免疫力など多くの因子が予後を決定します。いったん脳炎を起こした場合には生命が失われることも珍しくありません。 意識障害が続いたり、けいれんが止まらなかったりといった脳症状が続く場合には、命が助かっても精神や知能、運動機能が障害されてしまうことがかなりあります。また、二次性のてんかんなども後遺症として残ることがあります。

予防について
ワクチンでしか予防できません。
インフルエンザのときにアスピリンや非ステロイド系の解熱鎮痛剤(ポンタール、ボルタレン)を使用しないようにしなければなりません。
高熱があり、うとうとして呼びかけてもなかなか返事しないとか、起こしてもすぐに眠り込んでしまうといった意識障害が見られる場合、けいれんが止まらない場合には至急病院を受診してください。

補)インフルエンザ脳症の病態
ウイルス・病理学的検討から
@ウイルスは直接脳からは検出されない。
A血管内皮の傷害が起きている。
B血球貪食細胞の存在
Cミトコンドリアの傷害
ミトコンドリアの傷害を起こす機序として、髄液中にIL-6などの炎症性サイトカインが高値であることが認められる。
感染→高サイトカイン血症→多臓器不全という経過が考えられている。
予後不良の因子として血小板数の減少、AST、ALT、LDHの上昇、凝固検査の異常、クレアチニンの上昇などが上げられている。

(文献 39 40)

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