注射してもらえないんですか


 かぜの子どもを診察した後、ときどき「注射してもらえないんですか」と言われる。かぜ薬の注射をご所望だ。おとうさんやおかあさん、特におじいさん、おばあさんが来るとこのように言われる頻度が高い。内科ではかぜの注射が一般的らしくその注射を受けて、良くなったような経験があるようなのだ。実はかぜの注射薬などないのである。その注射の中身は解熱剤である。解熱剤は熱を下げる作用があり、また痛みを取ってくれる鎮痛作用もあるので、熱が下がり、のどや節々、筋肉の痛みなど体のいろいろな痛みを和らげてくれる。何時間かは気分が良くなる。不思議なことにこれでかぜが一発で治ると信じている人がいる。

 本当は一時的に熱が下がり、痛みが取れているだけなのだ。しばらくするとまた熱も出てくるし、痛みも戻ってくる。解熱剤は時間が経つと効果は無くなる。だからそのような注射は必要ない。これは筋肉にするものだから、特に子どもには僕たち小児科は解熱剤の注射はほとんど使うことはない。

 こんな時、次のようにていねいに説明することにしている。「一時的なんですよ。解熱剤なんですよ。解熱剤を使っているのと同じなのですよ。そんなに急いで下げることはないんですよ。」

 昔、よくドラマで、あるシーン、ふと気がつくと子どもがふーふーいっている。手を当てると、熱い。「こんな熱があるじゃないか、大変だ。」主役が子どもを抱いて、飛んでいく。
これはドラマだが、文字通りドラマチックにしたいのだろうが、困ったものだ。
「子どもはかぜをひくと熱が出るものです。熱が出てウイルスや病原菌と戦っているのです。だからすぐに熱を下げる必要はないのです。」と説明する。
時に扁桃腺炎や気管支炎などで抗生物質を入れた輸液をする事はある。これはかぜの時にするものではない。

 少し前のことだが、ある診療所で同じ様な注射をして青年が亡くなったという新聞記事が出ていた。熱も測っていなかったらしい。日常的にかぜにかかったらこの注射をしていたのであろう。
このような危険なことが潜んでいる。
だから、かぜの時には「かぜの注射を」とは言わないでくださいね。
そして「こんなに熱が出ているのになにもしてくれない」と言わないでくださいね。そんなことはないんですから。


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