小麦アレルギー


小麦は、食物アレルギーの第3位に位置する重要なアレルゲンです。厚労省の研究班のデータでは約12%を占めています。
乳児期に発症した小麦アレルギーの3歳時点の耐性獲得率は63%です。6歳までに耐性を獲得しにくい因子としてアナフィラキシーショックの既往、アトピー性皮膚炎の合併、多種食物アレルギーなどがあげられています。
乳幼児の即時型食物アレルギーの3大原因食物は鶏卵、牛乳、小麦ですが、学童期になると3大原因食物は鶏卵、果物類、甲殻類となり、鶏卵、牛乳、小麦は6割ほどに減ってきます。このことは乳幼児早期の原因食物が学童期に入る前に耐性を獲得していることを示しています。
小麦は学童期以降(7〜19歳)では8番目に位置し、5%程度となります。


症状
即時型症状は、接種後2時間以内に発症する皮膚・呼吸器・消化器・粘膜症状などが出現します。口腔粘膜症状は「からい」「にがい」「いがいがする」という表現をすることもあります。同じことを繰り返すようでしたら診断的価値があります。
小麦花粉による花粉症もあります。小麦粉による食物アレルギーには即時型アレルギーと小麦製品接種後の運動で重篤な症状を起こす小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA)があります。最近、加水分解小麦含有石けんの使用による食物アレルギーが問題になりました。
アトピー性皮膚炎を持つこどもでは湿疹との因果関係を注意して観察、問診します。接種後4時間以上経過してかゆみの悪化を生じる非即時型反応を疑う場合には再現性を重要視して食物日記等利用して観察します。

小麦の主要蛋白はグルテンですが、加熱によっても抗原性が低下しないため注意が必要です。蛋白分解酵素で低アレルゲン化した小麦粉を使ったパン、お菓子、などの低アレルゲン化食品が市販されているので、アレルギーの程度によっては、それらを使用することが可能です。醤油は発酵・醸造の工程を経て作られているため、小麦の抗原性が極めて低いことから、ほとんどの小麦アレルギー児で使用が可能です。
小麦粉はグルテンの含有量によって薄力粉、中力粉、強力粉に分けられ、中力粉で作るうどんの方が、強力粉で作るパン・パスタより抗原性が低いのです。手延べそうめん・冷や麦などは熟成を経るため、うどんより抗原性が低いといわれていますが、生地の表面に植物油を塗って手でよりをかけながら細く引き延ばすため、使用する植物油の組成にアレルギーがある場合は注意が必要です。

診断
臨床症状から判断し、診断のための検査としてとして小麦特異的IgE抗体価の測定を行いますが、小麦特異的IgE陽性例の約半数は非小麦アレルギーです。症状がない場合でも陽性になることがあります。
ω-5グリアジン特異的IgE抗体の検査を同時に行うことで、小麦アレルギーの判断をより正確に行うことができます。

経口負荷試験
小麦特異的IgE値とω-5グリアンジンの特異的IgE値を参考にしながらω-5グリアジン特異的IgE値が低くなれば、負荷試験を行いながら食べていくことが可能かどうかを見て進めていきます。この値が高いままだと進めていくことは難しいケースがかなりあります。
食物負荷試験の目的は
 1)食物アレルギーの確定診断
 2)耐性獲得の診断です。
そして
 a)いつまで食物除去するのか
 b)検査で陽性でも本当に食物アレルギーなのか
 c)どの程度まで摂取可能なのか。
などの問題を解決していくための手段です。
特異的IgE値と負荷試験の結果との関係については抗体価が高くなるほど負荷試験での陽性が高くなります。抗Ua/ml 以上(クラス3)では半数以上が負荷試験陽性になります。

治療
小麦粉が食べられませんので、除去します。ごはんは食べることができます。めん類、パンが食べられません。小麦粉を使った様々なお菓子などが食べられません。小麦粉は天ぷらやとんかつの衣、カレーやシチューのとろみなど、料理の中にも小麦が使われているので、注意が必要です。また、しょうゆにも小麦が使われているので、アレルギー症状が強い場合は製法が明確な雑穀しょうゆを使う方が良いでしょう。
一般的には小麦は耐性獲得率が低い食品とされていますが、少しずつ獲得してきます。しかし、油断はできません。成人になってからでも注意が必要です。

小麦アレルギーの耐性化予後
成人発症の職業性小麦アレルギーおよび小麦依存性運動誘発アナフィラキシーの耐性化はほとんど得られませんが、子どもの小麦アレルギーでは耐性化しやすくなります。
4歳までに59%が耐性獲得し、6歳までに60〜70%が耐性獲得しています。多くは小児期までに85%以上が耐性獲得しています。

※耐性が獲得しにくい食物
甲殻類、小麦、果物、魚類、そば、ピーナッツ
アメリカの報告では牛乳アレルギーの85%は8.6歳までに、卵アレルギーの66%は5歳までに、ピーナッツでは20%、木の実では9%獲得するとされています。

除去食品
除去食品加工食品、料理、その他注意する食品
小麦粉パン、パン粉、うどん、そうめん、日本そば、ラーメン、スパゲッティ、マカロニ、麩
小麦を使った料理シチュー、グラタン、天ぷら、フライの衣、カレールウ、シチューの素、ぎょうざ、シューマイ、春巻
小麦加工品小麦胚芽油、麦茶、しょうゆ、ビール、ウィスキー
小麦を使った料理クッキー、ドーナツ、ケーキ、ホットケーキ、麦芽ドリンク

代替食
 米粉(上新粉)・片栗粉・その他の穀粉としてはホワイトスルガム(イネ科カタキビの一種)、アマランサス(ヒユ科)などが使われます。麩はグルテンから作る加工品で抗原性が強いため注意が必要です。
※小麦を除去しても、米を主食とすることで栄養素の不足は生じにくいです。米粉やトウモロコシ粉を使ったパンや麺類を使用して代替とします。販売されている米粉パンにはコムギアレルゲンであるグリテンを使用しているものがあるため、食品表示を確認してください。
料理中につなぎとして使用する小麦粉は、米粉や馬鈴薯デンプンなどで代用します。
小麦粉は使用中に空中に舞いやすいため調理時の混入にも注意しましょう。ほかの雑穀類(ひえ、あわ、きび、たかきなど)は摂取することができます。

ω-5グリアジンについて

小麦のタンパクの成分です。小麦のタンパクには水溶性のものと不溶性のものがあります。小麦グルテンは水・塩不溶性タンパクで、グリアジンとグルテニンで構成されています。米や他の穀物には含まれない成分であり、小麦特有のアレルギー症状に関与してきます。その1分画であるω-5グリアジンは成人の小麦依存性運動誘発アナフィラキシーの原因アレルゲンとして解析されましたが、小児の即時型小麦アレルギーにも強く関与することが証明されました。ω-5グリアジン特異的IgEの抗体陽性は小麦アレルギーの診断特異性が高く、抗体価は症状誘発閾値や症状の重篤度とよく相関します。
一般に小麦特異的IgE陽性かつω-5グリアジン特異的IgEがクラス3以上であれば、ほぼ間違いなく小麦アレルギーと診断が可能です。

食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)の診断においても有用です。
FDEIAは原因となる食品の摂取後に運動負荷が加わることで症状を発現する、食物アレルギーの特殊型のひとつです。確定診断に際して、食物負荷および運動負荷が行われますが、こうした負荷試験での症状再現率は70%程度といわれ、診断が困難なアレルギーの一つと考えられています。 一方で負荷試験により重篤な症状を呈する場合もあり、血液検査による本症に対する診断効率は重要です。本邦においてはFDEIAの原因食品の約60%を小麦が占めています。

小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA)
小麦を摂取後、登校、運動後蕁麻疹や呼吸が苦しい、呼吸困難などの症状が出てきます。
小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA)に対する臨床的感度(陽性率)は、小麦48%、グルテン56%、ω-5グリアジン80%であり、小麦陽性のアトピー性皮膚炎を対照とした場合の臨床的特異度(カットオフ値=0.35UA/mL)は、グルテン44%、ω-5グリアジン68%でした。この結束、WDEIAの診断における臨床的感度・特異度はω-5グリアジンが最も優れており、従来検査の臨床性能を大きく改善することが示されました。さらに、ROC解析により求めたω-5グリアジン特異的lgEの最適カットオフ値は0.89UA/mLで、臨床的感度、特異度はぞれぞれ78%、96%でした。
(株)ファディアのパンフ WDEIA診断におけるω-5グリアジンの有用性(島根大学医学部皮膚科教授 森田栄伸先生)より

小麦グルテン:小麦粉に食塩水を加えて良く練った後、熟成させデンプンを洗い流したもの。
麩は小麦グルテンからできている。

プロバビリティカーブ   イムノキャップによるIgE抗体と食物負荷試験における症状誘発の可能性(プロバビリティー)をグラフにしたものです。
「食物アレルギーガイドライン2012」には卵白、牛乳と小麦・ω-5グリアジンのイムノキャップによるIgE抗体価に基づいたプロバビリティカーブが記載されています。 イムノキャップによるIgE抗体価から症状を誘発する可能性をおおむね予測することができます。しかし、あくまでも確率的なものですから注意が必要です。

★茶のしずく石けんに含まれるグルパール19Sという加水分解小麦によって感作が成立し、その後、小麦製品を摂取後の運動でアナフィラキシーなどのアレルギー症状を起こす事例が多発しました。
経皮感作で小麦特異的IgEを産生するだけでなく、食物アレルギーも発症することが認識されました。
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